第4話 敵を知る

このコラムは私と若年性認知症を患った母の10年をつづります。

これまでのコラム▼
第1話 いちばん縁遠い人のはずだった
第2話 怒り
第3話 手帳



「ねぇ、赤ちゃんがずっと泣いているけど、 
もうミルクあげたの?」

里帰り中、子どもが泣くたびに
何度も何度も聞かれたこの言葉に

初めての育児でいっぱいいっぱいで
子どもに泣かれるに凹み

寝不足の私は母を疎ましく思い、
怒りがこみ上げて 

「今、ミルクあげたばかりなの。  
大丈夫だから!!」

と母にきつく言ったことは数知れず…。

( 今思うと、私の里帰りは  
育児と介護の始まりでした^^)



この怒りは
長年の介護中何度も何度もこみ上げました。

だって、こっちには全くお構いなしで
3分おきに同じ質問があるんですから!!



「今日って、どこに行くんだっけ?」

「病院だよ。」

「そうだった、そうだった。 
用意しないと…お財布と鍵と…。  
で、今からどこにいくんだっけ?」

「病院だよー!」

「そうだった、そうだった。 
遅れないようにしないと! 
お薬手帳もいるよね。 
お財布と鍵と携帯と…。 
で、今日は何しに出かけるんだっけ?」

「病院に行くのーーー!」



もうね、コントです(笑)!

永遠に続くボケとツッコミ!!


怒りに感情を乗っ取られるか
コントだと割り切って笑えるか。 


一緒に笑ってくれる 
家族や友人がいるか。

ここが介護をする上での重要ポイントだと私は思います^^






さて、
このように脳全体の認知機能が低下して
記憶力が低下してしまう場合、

脳の中心《海馬(かいば)》の機能が低下する
【①アルツハイマー型認知症】と診断される可能性があります。

脳にアミロイドβやタウタンパクと 
呼ばれるタンパク質が多く溜まってしまい 
脳細胞が傷ついたり、壊れたりすることで 
この認知症は起こります。

新しいことが記憶できなかったり
過去の記憶が思い出せなくなったりします。

海馬は、実はとても繊細なので
強いストレスにさらされると壊れてしまう性質があって、
恐怖やストレスで起こるPTSD(心的外傷後ストレス障害)も
海馬に異常が現れて起きる病気のひとつです。

皆さんが想像する認知症や
ドラマでも題材にされる認知症はこの
【アルツハイマー型認知症】が多いかと思います。

認知症の約50%がこのアルツハイマー型認知症です。


認知症は簡単に4種類に分けられます。

上記にお話した
【①アルツハイマー型認知症】


2つ目は
【②脳血管性認知症】

これは、
脳梗塞や脳出血を起こしたり
脳の中の血流が悪くなることで起こる認知症です。

血流の状態によって認知症状も変化しますので
同じことができる場合と
できない場合が繰り返されることがあります。

”まだらぼけ”や”まだら認知症”と言われることもあります。

高齢の方に多くみられる認知症で
アルツハイマー型認知症に比べてゆっくりと症状が進みます。

これは約15%ほどと言われています。

この2つは
なんとなく皆さんの持っている
認知症のイメージに近いかな?と思います。



次に
【③前頭側頭型認知症】

脳の前の方にある《前頭葉》

ここは人間の運動、
言語、感情のコントロールコミュニケーション、
思考したり、想像したり、する機能をもちます。

例えば、私たちが道路を横断できるのも前頭葉のおかげです。

ここで渡ろうと判断して
左右をみて
車が来ないか見て
いないことを判断して
身体を動かして横断歩道を渡る。

判断して遂行する遂行機能をつかさどっています。

あと、
靴ひもを結ぶことや字を書くこと等
習得した動作をコントロールすることも
この前頭葉のおかげなんですよ!

動物と脳を比較した時に大きさが一番違うのがこの部分です。


”人間らしさ”という社会性や
”その人らしさ”という人格の源泉
といっても過言ではないとても重要な場所です。


あと、
脳の両側にある《側頭葉》右側は、
音や映像を理解する能力があるので私たちが歌を歌えたり、
テレビや映画を理解できるのは

右側の側頭葉が正常に働いているからです。

反対側、左側の脳は言葉に関与しています。
言葉を記憶したり、理解したり
言いたいことを言葉にできているのは
この左側の側頭葉の能力です!

この前頭葉と側頭葉の機能が低下する認知症は
記憶力の低下よりも、
言葉がうまく話せない、コミュニケーションがとれない、
すぐ怒るようになるなど感情の起伏、
人格が変わってしまうなどの症状がでます。

この認知症となった場合、
社会性の欠如から万引きなどをしてしまったり、
感情のコントロールが効かなくて痴漢をしてしまうこともあります。

「え、認知症でそんなこともあるの?」

と思われるかもしれませんが、
認知症のタイプによっては起こってしまいます。



最後に
【④レビー小体(しょうたい)認知症】

聞きなれない言葉ですよね^^

レビー小体というのは、 
特殊なたんぱく質の名前です。 

それが増加してしまい、
脳の神経細胞を傷つけて壊してしまいます。

脳の中枢的な役割を司る大脳皮質や脳幹
(呼吸など生きる上で大切な場所)にたくさん集まります。

この認知症は物忘れは軽度だったり
良くなったり悪くなったり症状が変わりやすいことが特徴です。

脳幹に多くレビー小体が集まってしまった場合は
手足が震えたり、硬直したり、
飲み込みがしにくくなったりすることもあります。

気分が落ち込みやすかったり、
尿失禁や失神、幻聴や幻覚が見えることもありますので
他の病だと思われていて、認知症との診断に時間がかかることもあります。

認知症の20%ほどを占めて比較的男性に多いことが特徴です。




どのタイプの認知症であっても進行性です。

残念ながら、
現在は進行を遅らせる薬はありますが、
止めたり改善させる薬はありません。

多くの薬の研究がされてきましたが効果が十分にでず、
研究が中断されていっているのも現状のひとつです。




今まで物忘れをピックアップしてお伝えしてきていましたが
物忘れだけが認知症の症状ではありません!


万引きをしてしまった。
失禁してしまった。
怒りっぽくなった。
忘れっぽくなった。


そのこと自体は
きっとあなたを困惑させたり怒らせたりすると思います。

でもそれは、その人がしたくてやっているのではなくて 


” 認知症という病のせいで   
その行動をとらされている ”



この認識は介護をする上で
ずっとずっと大事にして心で唱え続けている言葉です。



長らく母の主治医をしていてくださった先生が
何度も優しく声を掛けてくださった言葉です。


悪いのは人じゃない
戦うのは人じゃない



認知症になった家族と戦うのではなくて
認知症に、家族と一緒に戦う。

本当の敵は何かを知る。

これはいつまでも心にありますし
これから、また
母ではない家族の介護をする時もいつも心で唱えつづけると思います。



何かパートナーや親、ご友人の様子が少しでも
「最近、変だな?」と思うことがあったら
迷わずに病院へ行ってください。

認知症は、精神科または脳神経外科で診断をしてもらえます。

なかなか足を踏み入れにくい方には
<物忘れ外来>をお勧めします^^

ですが、自分で自覚して病院に行けたら良いのですが
認知症の方の多くは、症状の自覚がないことが多いので

病院に連れて行くことが


まぁーー!大変!!!!


超難関!!
骨折ります!バッキバキ折ります!!
一筋縄じゃいきませんからね^^

「これでもか!」と策を練り上げても
スルッと逃げられます(笑)!

今年は、私が母を病院やデイサービスに導くことのできた
あの手この手!ひとつひとつご紹介していきますね。

今年もお読みいただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願い致します。





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《プロフィール》
竹内なつみ

神奈川県横浜市で育ち 
3歳上の頭の切れる姉と喧嘩することなく、
ぬくぬくと甘えさせられて育つ。
母が40代前半で生死をさまよう手術をした経験から、
表情や顔色、会話の雰囲気などの変化に気付けるようになり、
身近な人を守りたいと看護師を目指す。
日本赤十字看護大学にて看護師・保健師の資格を取得後、
脳神経外科専門病院にて勤務。
急性期病棟にて経験を積む。
その後、看護を学ぶため、大学院修士課程へ進学。
病院入院中の患者を観察やインタビューなどから、
患者について深く学ぶ。
観察力、分析力、文章力を評価され、博士課程へ進む。
博士課程在学中、ワンオペ育児、介護で忙殺され、途中退学する。
現在は、とにかく明るい性教育「パンツの教室」インストラクターとして活動中。
活動開始より半年で70名、1年で130名以上の方へ伝えている。