第8話 着地しない心の疲れ

このコラムは私と若年性認知症を患った母の10年をつづります。

これまでのコラム▼
第1話 いちばん縁遠い人のはずだった
第2話 怒り
第3話 手帳
第4話 敵を知る
第5話 北風と太陽
第6話 認知症の診断
第7話 認知症の予防


こんにちは。
竹内なつみです。

認知症となった母との10年間の歩みと
脳神経外科病棟の看護師の経験保健師の知識も盛り込み、
認知症や介護に関する情報をお伝えしています。



母が認知症になり、
どんどん状況が変わっていく中で
認知症の家族会(※1)へも出席し 
情報を得たりしていたのですが

昔から本から学びを得たくなる私は
介護に関する本を探していました。


でも、なかなか見当たらなかったんです。 


介護の方法を教えてくれる本ではなくて、

“心に寄り添ってくれる本”が。


そんな時、ようやく見つけた本が

『認知症の人を愛すること
~曖昧な喪失と悲しみに立ち向かうために~』 (※2)

という書籍でした。



そのまえがき(p.iv~v)に 

認知症の家族の存在について

・家族の一員があなたにとって、存在していながら不在であるという状況
・身体的に存在しながら心理的に不在
・愛する人は目の前にいても、心理的にはいなくなっている

と記してあったんです。


私と母の状況を

こんなにも的確に表してくれている書籍は初めて。
大切な家族が認知症になった時の気持ちに寄り添う書籍は初めて。

いたく感動したことを憶えています。



認知症の方は日々はもちろん、
日内でも変動することがあるほどその症状が変わります。



今日は調子が良いのかな?
元に戻ったみたい!
と思っても、翌日には物忘れが頻繁になったり。

治ったのかも!と期待して、落胆してその繰り返しで
本当に落ち着かないんです。
(落ち着いたときには認知症
とても進んだ状況でもあります。)


症状が固定しないので 
期待した自分が自分を落胆させます。


また、認知症の診断をしてもらいたくても
「まだ認知症とは言えない」と言われ続け

「もう認知症ってはっきり言って…」
認知症の診断をされても母の状態が変わるわけじゃないのにと  

わかっていても、白黒はっきりと 
させてたくなることも度々ありました。



そして、
いつも付きまとう将来への不安や心配

いつ介護が終わるの?
この大変さはいつまで?
お金はいくらかかるの?
私の今後の人生はどうなるの?


もういいや、考えないようにしよう! 


と思っても、少し進行するとまた悩み、
まるでゴールがわからないマラソンを 
走り続けているかのようでした。



こういったように、心が揺さぶられることは、
時に介護者の心をとても疲れさせます。


私が10年で気づいたことは介護者に必要なのは

【グレーゾーンをうまく生きること】

はっきりさせたいけれど
こればっかりは自分では解決できません。



だから、

その
グレーゾーンを時に楽しみ笑って
時に泣いて怒って

認知症の家族と
その時を共に過ごすことに腰を据えてみる


でも、そんな中でも少しでも離れられそうなときは
その時間を死守して自分にたっぷりのご褒美を!

砂糖のとりすぎ?
暴飲暴食?
散財?

いいんです!


自分ではどうにもならなくて日々変わる人に付き合い
逃げ場はなく心は揺るがされて
あっちこっちと振り回されてとても疲れているんだからっ^^ 



先ほどご紹介した本では
私がグレーゾーンと言葉にしたことを

【曖昧(あいまい)さ】と表現されたり
【不可解な喪失】と記されたりしています。

あなたの人生を取り巻く曖昧さとうまくやっていくことからも 
希望が産まれます。

答えの出ない問いに耐える力が増すとともに、 
精神性の深まりを実感するかもしれません。

説明のつかないものにもう少し信頼を置き、 
明瞭さを望む気持ちをなだめてください。
 
そうすれば、新たな選択の道が開けます。
 
おかしなことを以前より 笑い飛ばせるようになります。 
コントロールしたいという気持ちが弱まり、 
より忍耐強くなるのです。

『認知症の人を愛すること~曖昧な喪失と悲しみに立ち向かうために~』(p.117)



自分の心を言葉にすることが難しい時、 
代弁してくれるような 
心に寄り添ってくれる1冊とめぐり合うと気が楽になりますよ♡


書籍だけでなくブログなどにも様々な 
介護記録が残されていますので 
今しんどい方は是非探してみてくださいね^^


次回は、施設のお話。

いつ施設を検討するの?
どんな施設があるの?
すぐに入れる?
入るための条件はあるの?

気になるお金の話もしますね^^
では、また来月。


※1 家族会 
病を持った患者さんの家族が、お互いに悩みを分かち合い、
共有したりして、支え合う会のこと。

※2 『認知症の人を愛する人~曖昧な喪失と悲しみに立ち向かうために~』
ポーリン・ボス著 和田秀樹監訳 森村里美訳  2014年 誠信書房 

▶︎過去のコラムはこちらhttps://rdoor-official.com/category/column/takeuchinatsumi/


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【プロフィール】
竹内なつみ

保健師資格を有する看護師。
脳神経外科専門病院、超急性期・急性期にて勤務後、
看護とは何か、患者さんの体の変調に伴う感情の変化を研究すべく、
大学院へ進学。修士課程卒業、博士課程中退。
大学院入学と共に、実母の認知症状が現れ始め、
学業、仕事、ワンオペ育児と介護に奮闘する。
現在は、看護師として勤務しつつ、ミセスコミュニティーR-door副代表を務める。